財務モデリングの作業は、その多くがExcel上で行われます。複雑な計算式の入力、多数のシート間移動、参照関係の確認など、マウス操作に頼っていては膨大な時間がかかってしまいます。この章では、作業効率を飛躍的に向上させるためのExcelショートカットキーを徹底解説します。Windowsの基本操作から、モデル構築・レビュー特有のショートカットまで、実務で即戦力となるものを厳選しました。脱マウスを目指し、ストレスのない快適なモデリング環境を手に入れましょう。
なぜショートカットが必須なのか?投資対効果と習得のコツ
財務モデルの構築やレビューはExcel上での作業量が非常に多いため、マウスを使っていては時間がいくらあっても足りません。しかし、一つ一つの操作を見れば、同じExcel操作を繰り返しているに過ぎないことも多いのです。そのため、1つの操作を短縮することで、全体の作業時間を大幅に削減できます。例えば、4秒かかっていた動作を1秒に短縮できれば、4時間の作業が1時間に圧縮される計算になります。この意味で、Excelショートカットをマスターすることは非常に投資対効果が高いと言えます。
Excel作業に苦手意識がある方は、本質的にExcelが苦手なのではなく、Excel上での操作が快適にできない、つまり作業スピードが遅いことがストレスの原因である場合が多いです。ショートカットを覚えることで、Excel作業のストレスが大幅に軽減されることもあります。
Excelショートカットの探し方
Excelのショートカットは、Googleで調べたりマニュアルを読んだりしなくても、Excelの画面上で簡単に確認できます。具体的な手順は以下の通りです。
- 操作したい機能のアイコンやボタンをExcelのリボン上で探します。
Alt
キーを1度押して離します。- 目的の場所に向かって、画面に表示されるアルファベットキーを順に押していきます。
例えば、「行の高さを変えるショートカット」を探したい場合を考えてみましょう。
まず、リボン上で「ホーム」タブの「セル」グループにある「書式」をクリックすると、「行の高さ」という項目が見つかります。
この場所が分かったら、Alt
キーを押して離すか長押しすると、タブごとにアルファベットが浮かび上がってきます。
「ホーム」タブはH
なので、キーボードでH
を押します。すると、「ホーム」タブ内のメニューに割り当てられたキーが表示されます。次に、「書式」に割り当てられているO
(オー)のキーを押します。
最後に、「行の高さ」に割り当てられているH
キーを押します。以上の操作から、行の高さを変えるショートカットは Alt + H + O + H
であることが分かります。
Excelのショートカットは無数にあり、全てを一度に覚えるのは不可能です。まずは頻出度の高いものから優先的に習得していきましょう。
Windows操作の高速化:実務で頻出する基本ショートカット
Excelのショートカットを押さえる前に、Windows自体の基本的なショートカットを復習しておくことが重要です。Windows上での作業はExcelと同等かそれ以上の頻度で繰り返し発生するため、これらのショートカットをマスターすることでPC全体の作業効率が改善されます。
Win + E
: 新規エクスプローラーウィンドウを起動します。- 補足: 現在開いているフォルダを複製したい場合は
Ctrl + N
でエクスプローラーウィンドウを複製できます。
- 補足: 現在開いているフォルダを複製したい場合は
Win + 矢印キー (←↑↓→)
: ウィンドウを画面の左右に分割配置したり、最大化・最小化したりします。Win + →
(右) またはWin + ←
(左) でウィンドウを移動させた後、Enter
キーで場所を確定させると、空いたスペースに表示するウィンドウ選択の手間が省けます。
Win + D
: 全てのウィンドウを最小化します。もう一度押すと、最小化前の状態に戻ります。Alt + Tab
: 現在開いているアプリケーションを切り替えます。Alt
キーを押しながらTab
キーを繰り返し押すことで、切り替えるアプリケーションを選択できます。Alt + Shift + Tab
で逆方向に切り替え可能です。
Ctrl + Alt + Delete
: Windowsのセキュリティ画面を表示します。Delete
キーは必ず最後に押します。- セキュリティ画面ではデフォルトで「ロック」が選択されているため、すぐに
Enter
キーを押せばPCをロックできます。一時的な離席時に便利です。
- セキュリティ画面ではデフォルトで「ロック」が選択されているため、すぐに
- エクスプローラー上で
Alt + ↑
: 上のフォルダ階層へ移動します。マウスで「戻る」ボタンをクリックするより格段に早いです。- 注意:
Backspace
キーでも直前の場所へ「戻る」ことができますが、必ずしも上の階層へ移動する訳ではありません。 - ファイルを選択した状態で
Enter
キーを押せばファイルが開かれます。
- 注意:
Shift + Delete
: ファイルやフォルダを選択した状態で使用すると、ゴミ箱を経由せずに完全に削除します。秘匿資料などをすぐに抹消したい場合に重宝します。Alt + F4
: 現在アクティブなアプリケーションを終了させます。ウィンドウ右上の「×」ボタンをクリックする代わりになります。- エクスプローラー上で
F2
: 選択しているファイルやフォルダの名前を変更できます。 Shift + F10
: 選択しているアイテムの右クリックメニュー(コンテキストメニュー)を表示します。Excelのショートカットと同じです。
これらのWindowsショートカットを完璧にマスターすることが、次のステップであるExcelショートカット活用の土台となります。
Excel操作の基礎:これだけは押さえたい「最重要」ショートカットキー
ここからは、財務モデリングで実際に使用するExcelのショートカットのうち、理屈抜きで今すぐ覚えてほしい「最重要」なものを厳選して紹介します。これらを完璧に習得し、基礎を固めましょう。
Shift + Space
: 行全体を選択します。財務モデリングでは行全体を多用するため、使用頻度が非常に高いショートカットです。- 注意: 全角入力モードでは機能しないため、半角入力で操作するかキーボード設定を編集する必要があります。
Alt + E + S + V + Enter
: コピーしたセルの「値」を貼り付けます。Alt + E + S
で「形式を選択して貼り付け」ダイアログが表示されます。これはExcel 2003以前の古いショートカットですが、キー入力数が少なく押しやすいため、現場では依然として多用されています (Alt + H + V + S
が正規)。V
はValue(値)の頭文字です。Alt + E + S + T + Enter
: コピーしたセルの「書式」を貼り付けます。同様に「形式を選択して貼り付け」ダイアログから、T
(Formatの語尾)を選択します。- 注意: 書式には条件付き書式は含まれますが、コメントと入力規則は含まれません。
Ctrl + PgUp
/Ctrl + PgDn
:PgUp
で左のシートへ、PgDn
で右のシートへ移動します。- 補足: Excel左下のシート移動矢印を右クリックするとシート一覧が表示され、クリックでジャンプできます。
Ctrl + 矢印キー (←↑↓→)
: データが入力されている範囲の端までセルを高速移動します。Ctrl + Shift + →
で右端までのセルを一気に選択する際などによく使います。シートの上下移動はPgUp
/PgDn
の方が早い場合もあります。
Ctrl + 9
: 選択している行を非表示にします。Ctrl + Shift + 9
: 非表示になっている行を再表示します(隠れている上下の行を選択した状態で行います)。Ctrl + 0
(ゼロ): 選択している列を非表示にします。Ctrl + Shift + 0
(ゼロ): 非表示になっている列を再表示します(隠れている左右の列を選択した状態で行います)。Ctrl + -
(マイナス): 選択している行全体を削除します。事前にShift + Space
で行全体を選択してから実行するのが効率的です。行全体が選択されていない場合はダイアログが表示されます。Ctrl + Shift + +
(プラス): 選択している位置に行全体を挿入します。正確にはCtrl + +
ですが、覚えやすさのためShift
も記載しています。同様に、事前にShift + Space
で行全体を選択してから実行するとスムーズです。
モデル構築を加速するExcelショートカット:作表・編集作業を効率化
最重要ショートカットを習得したら、次は財務モデルの構築実務過程で特に使用頻度が高いショートカットをマスターしましょう。これらを使いこなせれば、Excel上での操作ストレスを最低限に抑えられます。
Alt + H + H + 色選択
: 選択しているセルの背景色を変更します。Alt + H + H
で背景色選択画面が表示され、矢印キーで色を選択しEnter
で確定できますが、色の選択自体はマウスでも構いません。Alt + H + H + N
: セルの背景色を「なし(無色)」にします。これはキーボード操作で完結できるため便利です。
F2
: 選択しているセルを編集モードにします。数式が入力されているセルで押すと、参照先のセルが色分けで表示され確認にも役立ちます。Excelで最も使うショートカットの一つなので絶対に覚えましょう。- 注意:
F2
キーを押しても編集モードにならない場合は、ファンクションキーのロックがかかっている可能性があるため、Fn
キーを押しながらF2
キーを押す必要があります。
- 注意:
Ctrl + Enter
: 複数のセルを選択した状態でセルに値を入力または数式を編集した後、Enter
の代わりにCtrl + Enter
を押すと、選択範囲の全セルに同じ内容を一括で反映できます。1つのセルを編集してコピー&ペーストするよりも手早く作業できます。- 手順例:
- Excel上で複数のセルを選択します。
F2
キーを押して編集モードにします。- 値を入力します。
Ctrl + Enter
を押します。
- 手順例:
Ctrl + Shift + F3
: 選択範囲のデータから名前の定義を一括で作成します。名前の定義を使う際には必須のショートカットです。ダイアログボックスが表示され、名前として使用する行や列を指定できます(例:右端列ならR
キー)。Shift + F10
: 右クリックメニューを表示します。Explorer上でも同様に機能します。Alt + E + M + C + Enter
: 現在選択しているシートをコピーして、一番左に新しいシートとして複製します。Alt + E + M
はExcel 2003以前のショートカットで、Excel 2007以降の標準はAlt + H + O + M
ですが、前者のほうがキーの組み合わせが押しやすくキー数も少ないため推奨されます。Alt + H + O + R
: 現在のシート名を変更する状態にします。シートをコピーした後に名前を変更する一連の流れで活用されます。Alt + H + J
: セルのスタイル選択画面を開きます。フォント、背景色、罫線などを組み合わせた書式パターンを事前に登録しておき、必要に応じて呼び出す機能です。スタイルの選択自体はキーボードだと遅いため、マウスで選んでも構いません。
モデルレビューを円滑にするExcelショートカット:参照関係の確認や数式評価
最後に、財務モデルをレビューする際に頻繁に使用するExcelショートカットを解説します。モデルレビューはある程度モデル構築に慣れてから取り組むべき技術ですが、これらのショートカットをマスターすることで、構築・レビュー両面でのスキルアップに繋がります。
Ctrl + [
(左角括弧): 数式が入力されたセル上で押すと、その数式が参照している一番最初のセル(参照元)へジャンプします。モデルレビュー時には非常に多用するショートカットです。- 例: セルに
=(A1+B2)*C3
と入っている場合、Ctrl + [
を押すとセルA1へジャンプします。
- 例: セルに
Ctrl + ]
(右角括弧): 選択しているセルが、他のどの数式から参照されているか(参照先)へジャンプします。Ctrl + [
ほど使用頻度は高くありませんが、セットで覚えておくと便利です。Alt + M + P
(トレース precedents): 現在のセルがどのセルを参照しているか(参照元)を青い矢印で表示します。矢印をダブルクリックすると参照元へジャンプできます。(Excelのバージョンや言語設定によりCtrl + Shift + [
の場合あり)Alt + M + D
(トレース dependents): 現在のセルをどのセルが参照しているか(参照先)を青い矢印で表示します。同様に矢印をダブルクリックでジャンプ可能です。(Excelのバージョンや言語設定によりCtrl + Shift + ]
の場合あり)Alt + M + A + A
: 上記で表示した参照関係の矢印を全て削除します。Ctrl + G + Enter
:Ctrl + [
などでジャンプした後、ジャンプ直前の場所へ戻ります。Ctrl + G
でジャンプダイアログが表示され、直前の場所がデフォルトで選択されているため、そのままEnter
キーを押すだけで戻れます。- 注意:
Ctrl + [
での参照元へのジャンプ位置のみ記録され、Ctrl + ]
での参照先へのジャンプ位置は記録されません。
- 注意:
Alt + F11
: VBE (Visual Basic Editor) を開きます。マクロ(VBA)を確認したり記述したりする際に必須のショートカットです。Alt + M + V + E
: 「数式の評価」ダイアログを開き、複雑な数式の計算過程を段階的に表示・評価します。Alt + M + V
でダイアログを開き、E
キーを押すごとに計算が1ステップ進みます。- 使用例: セルに
=((1+2)*(3+4)+80)/(2)^3
と入力し、このショートカットを試してみてください。
- 使用例: セルに
これらのショートカットを駆使することで、モデルの確認作業が格段にスムーズになり、エラーの早期発見や理解の深化に繋がります。
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