まずは、プロジェクトファイナンスとは何か、その基本的な考え方から見ていきましょう。
1. はじめに – プロジェクトファイナンスとは?
プロジェクトファイナンスの定義
プロジェクトファイナンスとは、特定のプロジェクト(事業)に対するファイナンスであり、その返済原資を「当該プロジェクトが生み出すキャッシュフロー/収益」並びに「当該プロジェクト資産」に限定した金融手法です。 特定の事業(プロジェクト)から生じるキャッシュフロー (CF)を引当てとしたファイナンス手法と言い換えることもできます。
太陽光発電事業で言えば、発電所を建設し、売電することで得られる収益を元手に銀行などから融資を受けるイメージです。銀行は、融資の返済をその太陽光発電事業が生み出すお金(キャッシュフロー)と、発電所の設備や土地などの資産だけに求めます。
対象となる事業
プロジェクトファイナンスの対象となる事業は、安定的で予見可能性が高く、かつ、十分なキャッシュフローを生み出すプロジェクトです。 具体的には、発電事業やインフラ事業(PFI)などが挙げられます。
- 発電事業: 民間が自ら資金調達のうえ、発電所の設計・建設・維持管理・運営等を行い、発電した電気を電力会社等に販売します。 キャッシュフローの源泉は、売電先からの電気料金となります。太陽光発電事業はまさにこの典型例です。
- インフラ (PFI): 民間事業者が自ら資金調達のうえ、公共施設の設計・建設・維持管理・運営等を行い、公共サービスを提供します。 キャッシュフローの源泉は、公共から支払われるサービス対価(いわゆる箱モノPFI)や、コンセッション/独立採算型の場合は施設の利用者からの利用料金となります。
2. コーポレートファイナンスとの違い
プロジェクトファイナンスをより深く理解するために、一般的な企業の資金調調方法である「コーポレートファイナンス」と比較してみましょう。
コーポレートファイナンスは、企業自体の信用力に依拠し、全ての資産がファイナンスの引当てになります。 担保提供があったとしても、担保実行後に債務が残っていれば返済が必要です。
以下に、両者の主な違いをまとめます。
コーポレートファイナンスとプロジェクトファイナンスの比較
項目 | コーポレートファイナンス | プロジェクトファイナンス |
---|---|---|
借入人 | 既存企業 | 特別目的会社(SPC) |
事業主体 | 借入人 | 主要スポンサー |
返済財源 | 企業全体の事業収益 | 当該プロジェクト収益 |
担保 | 企業信用力/所有財産 | 当該プロジェクト資産 |
リスク分析 | 企業財務分析 | 事業リスク分析 |
スキーム図 | 銀行 ⇔ A社 (融資・返済) 事業1, 事業2, 事業3 | 銀行 ⇔ SPC (融資・返済) SPC ← 事業A (事業主体は主要スポンサー) |
長所と短所の比較
項目 | コーポレートファイナンス | プロジェクトファイナンス |
---|---|---|
借入金額 | 小(中小企業)~巨額(買収ファイナンス等) | 大~巨額 |
借入期間 | 一般的に短め。 既存借入含む事業会社の事業計画にリンク | 原則、オフテイク契約の条件(価格、期間等)にリンク。 長期ではあるものの、契約期間にリンク。 原則、フルペイアウトが前提 |
借入比率 | 会社による | 高くすることが可能 |
スポンサーの借入返済義務 | あり | 限定的(出資金、スポンサーサポート等) |
適用金利 | 会社の信用力により低~高 | 一般的に高め(プロジェクトリスク、高いレバレッジ、長期与信) |
組成コスト | ストラクチャリング、デューディリジェンス負荷が一般的に高くない。 組成期間も短く、組成コストは低い | ストラクチャリング、デューディリジェンス負荷が高い。 組成期間長く、弁護士、コンサルタントフィー、デューデリジェンス費用も必要 |
経営自由度・事業の柔軟性 | 一般的に高い | 限定的 |
その他長所 | ・借入期間が長い ・借入比率を高くできる ・投資効率の向上(レバレッジ効果) ・詳細なリスク分析・リスク分担を通じた事業全体のリスクの軽減 ・スポンサーが負担するリスクの軽減 ・オフバランス化、格付けにおけるプラス評価の可能性 | |
その他短所 | ・融資組成コストが高め(手間・時間・費用) ・経営自由度が限定的 ・プロジェクト運営上の制約が増える ・期中管理負荷が高い(情報開示義務多数) |
太陽光発電事業のような長期にわたる事業では、プロジェクトファイナンスの「長期借入が可能」という点は大きなメリットです。一方で、組成に手間と時間がかかり、コストも高くなる傾向がある点は留意が必要です。
3. プロジェクトファイナンスの主な特徴
プロジェクトファイナンスには、コーポレートファイナンスとは異なるいくつかの際立った特徴があります。
特別目的会社(SPC)の活用
プロジェクトファイナンスでは、実質的な事業主体たるスポンサーからファイナンスの対象となる特定のプロジェクトを切り出すため、特別目的会社 (SPC: Special Purpose Company)を利用します。 このSPCは、対象プロジェクトを唯一の事業目的とする会社として設立され、プロジェクトの実施主体となり、プロジェクトファイナンスの借入人となります。 SPCを通じてプロジェクトを運営(契約の締結、許認可の取得等)し、レンダー(融資金融機関)はSPCに対して貸付けを行い、対象プロジェクトが生み出すキャッシュフローから元利金の返済を受けます。
太陽光発電事業の場合、発電事業を行うためだけに設立された会社(SPC)が、銀行から融資を受け、発電所の建設・運営を行う、という形になります。これにより、もし万が一その太陽光発電事業がうまくいかなくても、親会社であるスポンサー本体の経営への影響を限定的にすることができます。
ノンリコース・ファイナンスとリミテッドリコース・ファイナンス
これはプロジェクトファイナンスの非常に重要な特徴です。特定のプロジェクトの収益や資産以外には原則、返済財源を求めない、遡及しないという側面から「ノンリコースファイナンス」、あるいは限られた場合にしか遡及できないため「リミテッドリコースファイナンス」とも呼ばれます。 ファイナンスの引当てとなる資産は、原則としてSPCが対象プロジェクトから生み出すCF及び対象プロジェクトに係る資産に限定されます。
- ノンリコース: スポンサー(出資者)に対するリコース(遡及:さかのぼって請求すること)を一切認めないものです。つまり、プロジェクトが失敗しても、銀行はスポンサーに対して「代わりに返済してください」とは言えません。我が国では珍しいとされています。
- リミテッドリコース: SPCに残存するレンダーが負担できない特定のリスクに限定して、スポンサーへのリコースを認めるものです(追加出資、費用負担等)。実際には、多くのプロジェクトファイナンスはこのリミテッドリコースの形をとります。
太陽光発電事業で言えば、ノンリコースであれば、事業が失敗して融資が返せなくなっても、出資した企業は出資金以上の責任を負う必要がありません。リミテッドリコースの場合は、契約で定められた特定の状況下(例えば、許認可が取得できなかった場合など)では、出資企業が追加の資金提供などの責任を負うことがあります。
キャッシュフローファイナンスとしての性格(DSCRの重要性)
プロジェクトファイナンスは、返済原資を対象プロジェクトのキャッシュフローに限る、キャッシュフローファイナンスです。 そのため、プロジェクトが将来どれくらいのキャッシュフローを生み出すかという予測が非常に重要になります。
ここで重要な指標となるのが DSCR (Debt Service Coverage Ratio:元利金返済カバー率) です。
DSCRとは、各計算期間における、元利金支払とプロジェクトCF (収益)の比率のことで、返済の余裕度を測る指標として重要です。
キャッシュフローの変動リスクが大きい程、レンダーが要求するDSCRの水準は大きくなる傾向にあります。 他方、要求DSCRの水準が小さくなればなるほど、また借入可能期間が長期化すればするほど、借入金調達可能額は増大することになります。
簡単に言えば、DSCRが高いほど、借入金の返済に対して余裕があることを示します。太陽光発電事業の売電収入が、ローンの年間返済額をどれだけ上回っているか、というイメージです。銀行はこのDSCRを厳しくチェックします。
プロジェクトファイナンスは、資産の換価価値に着目したアセットファイナンスや不動産ファイナンスとは異なります。
全資産担保の考え方と目的(ステップイン権、防御的意義)
プロジェクトファイナンスでは、原則、事業資産(借入人が締結する契約上の債権や当該事業に関わる借入人所有の資産)に対して担保を設定します。 より具体的には、対象プロジェクトを構成するすべての資産、権利、契約上の地位等に対して、法的に可能な限り担保設定を行います。これを「全資産担保」と呼びます。
しかし、この担保の目的は、一般的な融資のように「返済できなければ資産を売却して回収する」という換金価値の把握だけが主目的ではありません。
- ステップインの権利確保: プロジェクトを一体として新スポンサーのもとへ承継し、プロジェクトを継続させ、引き続きプロジェクトからのキャッシュフローで元利金を返済することを目指します。つまり、レンダー(銀行など)が、事業がうまくいかなくなった場合に、元のスポンサーに代わって新たなスポンサーを見つけて事業を引き継がせ、事業を立て直す権利を確保するためです。
- 防御的意義: 第三者による差押え等によって対象プロジェクトを構成する資産が散逸することを防止する目的もあります。
太陽光発電事業の場合、発電所の土地、建物、設備、売電契約上の権利など、事業に必要なあらゆるものが担保の対象となり得ます。これは、事業が頓挫しそうになった際に、銀行が介入して事業を継続させるための手段を確保するという意味合いが強いのです。
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