【第4回】実践!プロジェクトファイナンスの契約(前編)- 主要プロジェクト関連契約のポイント

プロジェクトファイナンス

プロジェクトファイナンスでは、SPC(特別目的会社)が事業主体となり、様々な関係者と契約を締結します。これらの契約群が、プロジェクトのリスク分担の要となります。

1. プロジェクト関連契約の全体像とレンダーレビューの視点

プロジェクト関連契約の概要

主要なプロジェクト関連契約には以下のようなものがあります。

契約名称当事者主な内容
オフテイク契約SPC ⇔ オフテイカー・発電所プロジェクトにおいて供給される電力の購入(電力受給契約(PPA))
・インフラプロジェクトでは公共との契約(公共施設の建設・運営に関するPFI事業契約、コンセッション契約等)
EPC契約SPC ⇔ EPC企業対象プロジェクトを構成する施設の建設の請負
O&M契約SPC ⇔ O&M企業対象プロジェクトを構成する施設の運営・管理の受託
燃料供給契約SPC ⇔ 燃料供給者火力発電所プロジェクト等で必要な燃料の調達
相手方は(生産者でなく)商社となる場合も多い
土地利用権設定契約SPC ⇔ 地権者事業期間にわたる土地利用権の確保
匿名組合契約SPC ⇔ スポンサーエクイティ性資金の拠出
劣後ローン契約SPC ⇔ スポンサーデット性資金の拠出
SPCマネジメント契約/AM契約SPC ⇔ スポンサー or アセットマネージャー対象プロジェクトを遂行するSPCの運営
保険契約SPC ⇔ 保険会社対象プロジェクトに関するリスクを軽減するための付保
・EPC業者等が保険契約者となり、SPCは被保険者となることもある
事務委託契約SPC ⇔ 会計事務所等決算・税務申告業務等の委託

レンダーレビューの視点

これらのプロジェクト関連契約は、融資を行う金融機関(レンダー)にとっても極めて重要です。レンダーは、自らが直接の当事者とならない契約であっても、融資先のプロジェクトが安定的にキャッシュフローを生み出し、融資返済が滞りなく行われるかを判断するために、独自の視点で契約内容をレビュー・コメントします。

レンダーが特に注目するポイントは以下の通りです。

  • キャッシュフローの確保
  • 相手方の義務内容が契約目的に照らし明確で、違反時に損害賠償請求できるか
  • SPCの債務負担(支出)が明確で、CFの阻害要因がないか
  • 契約期間がローン期間をカバーしているか。解除事由は限定的か
  • 不可抗力事由など、不測の事態におけるリスク分担は明確か
  • SPCに残ったリスクはどのように軽減するか(例:保険、スポンサーサポート)
  • リスク・パススルー
    オフテイク契約でSPCが負担するリスクは、他の当事者にパススルーされているか。
    パススルー性が確保できていないと、SPCが事業計画以上の資金負担を強いられ、返済に悪影響が生じ得る。
  • プロジェクトファイナンス特有の規定
    担保設定の承諾、倒産不申立・責任財産限定特約、その他権利行使の制約等が含まれているか。

レンダーは契約書の重要性に応じてメリハリの利いたレビューを行います。

2. オフテイク契約(PPA、PFI事業契約など):キャッシュフロー安定化の要

オフテイク契約は、プロジェクトが生み出す製品やサービス(太陽光発電の場合は電力)の販売に関する契約であり、プロジェクトの収入を直接左右する最重要契約の一つです。キャッシュフロー(返済原資)の安定化を図るためのポイントを見ていきましょう。

主要項目ポイント
契約条件(単価、契約期間)・テイクオアペイ:主要施設が稼働可能な限り、オフテイカーは実際に受領していなくとも一定料金を支払う義務を負う(cf. アベイラビリティペイメント)
・固定価格買取制度(再エネ)、基本料金+従量料金(火力発電所)
・返済原資/金融費用を確保できる水準で設定する必要あり
商業運転/運営開始予定日商業運転開始遅延に備え、開始予定日の変更要件を明確化
不可抗力免責不可抗力で供給不能時の免責範囲を規定(免責範囲≥保険契約等で補填できる範囲が理想)
約定賠償金商業運転遅延に対する損害賠償、出力性能保証値未達時の損害賠償

FIT制度とPPA(電力受給契約)

太陽光発電事業では、FIT(固定価格買取制度)を利用する場合、電力会社(一般送配電事業者等)との間でPPAを締結します。

  • 旧制度(~2017年3月31日)
  • 締結義務者:小売電気事業者(電力会社、新電力など)
  • モデル契約:経産省「モデル契約」を使用。個別交渉で変更可能とされていた。
  • 現行制度(2017年4月1日~)
  • 締結義務者:一般送配電事業者等(電力会社)
  • モデル契約:各電力会社の「送配電買取要綱」を使用。個別交渉の余地はほとんどない。約款形式で、一定事由により電力会社が一方的に変更可能。

FITを利用しない場合(FIP、コーポレートPPA)の留意点

  • FIP制度やコーポレートPPAでは、オフテイカーの信用リスクや需要変動リスクを契約条件にどう反映させるか、より詳細かつ慎重に検討・交渉が必要。
  • コーポレートPPAでは、需要家側の需要減少リスク・信用リスク等を契約条項で明確化する必要がある。

3. EPC契約(工事請負契約):建設工事リスクの分担

EPC契約は、発電所の設計(Engineering)、調達(Procurement)、建設(Construction)を一括して請け負う契約です。建設工事に関連するリスク(完工遅延やコスト超過、性能未達など)をEPC企業に分担させることが主な目的です。

主要項目ポイント
契約目的・内容・対象設備を完成し、運営可能な状態で引渡すこと(Full Turnkey契約)
・設計・資機材調達・施工・試運転・性能試験など、完成に必要な一切の作業を請負う
・バラコン契約の場合、インターフェースリスク(契約間の責任の押し付け合い)が課題
・技術コンサルタントによる機器仕様・完工試験・性能保証内容の検証が必要(発電所プロジェクト)
契約金額固定金額(Fixed Price)とし、契約後の価格調整は原則不可(例外:SPC帰責事由)
支払条件建設マイルストーンに応じた出来高ベースの分割払いが一般的
納期完工期日指定引渡し(Date Certain)とし、契約後の納期調整は原則不可(例外:不可抗力等)
遅延対応完工遅延時の約定遅延損害賠償(Liquidated Damages)を定める
例:建中金利、地代、建設期間中の運営費用、保険料等をカバーする水準
保証事項・契約不適合担保責任(一定期間/修補・損害賠償請求)
・出力性能保証(一定期間/未達時の損害賠償)(発電所プロジェクト)
※太陽光発電では、発電量が一定基準に達することを保証
損害賠償・契約解除EPC当事者の帰責事由以外の損害賠償・契約解除は、保険契約その他の関連契約での補填と整合性を図る必要がある

太陽光発電事業では、EPC業者の選定と契約内容の作り込みが、プロジェクト初期段階におけるリスクヘッジの鍵となります。

4. O&M契約(運営保守業務委託契約):安定稼働とコスト管理

O&M契約は、発電所完成後の運営・保守業務を専門業者に委託する契約です。対象施設の安定稼働と、プロジェクトファイナンスに適したコスト体系によるキャッシュフローの安定化を目指します。

主要項目ポイント
委託業務範囲・SPCが事業主体であるため、O&M契約では運営に必要な業務を網羅的に委託することが必須(例:運転・監視、データ管理、保守管理、定期点検、緊急時対応など)
・太陽光発電では、パネル清掃、除草、定期点検、故障時の修理などが含まれる
契約期間商業運転開始から事業期間終了までが基本
契約金額・事業計画の確実性、CF安定化を確保するため、O&Mコストの固定化が望ましい
・確定金額による委託料設定、交換・補修コストの精算方法の事前合意
業務体制・事故発生時でも迅速に復旧し、影響を最小限に留める体制を構築(メーカー対応、修理・交換作業の実施者確定、レスポンスタイムや稼働率水準の設定など)
・メンテナンス体制:修理・交換のレスポンスタイムや稼働率水準を明確化し、迅速対応を確保
性能保証・稼働率保証(一定保証値/未達時の損害賠償)(発電所プロジェクト)
※太陽光・風力発電と火力発電所では、PPAとの関係で考え方が異なる場合がある
損害賠償・契約解除O&M当事者の帰責事由以外の損害賠償・契約解除は、保険契約等の関連契約での補填と整合性を図る必要がある

太陽光発電は比較的メンテナンスが容易と言われますが、長期的な安定稼働のためには信頼できるO&M業者との適切な契約が不可欠です。

5. 燃料供給契約(発電所プロジェクト):燃料の安定確保

燃料供給契約は、火力発電所などで必要な燃料(石炭、LNG、バイオマスなど)を安定的に調達するための契約です。太陽光発電事業では直接的な燃料供給はありませんが、プロジェクトファイナンスにおける一般的な契約類型として理解しておきましょう。

主要項目ポイント
契約目的・内容・発電所の仕様に適合する燃料の購入契約
・生産者(一次サプライヤー)と直接契約せず、商社等が仲介する場合が多い
・輸入燃料の場合、危険負担(インコタームズによる貿易実務)や為替リスクに注意
契約期間・試運転期間から事業期間終了まで確保が望ましい
・長期確保は容易ではなく、場合によってはスポンサーがリスクをとるケースもある
契約金額CF安定化を確保するため、価格の固定化が望ましい
供給義務(調達数量)・供給数量の明確化(測定場所・測定方法を含む)
・数量不足時の契約違反責任の明確化
・最低保証数量/年を定め、各月や輸送単位は都度協議とする例
品位・供給品位の明確化(測定場所・測定方法を含む)
・品位未達時の責任明確化(燃焼効率低下時は代金減額、異物混入時は発電所へのダメージを考慮)
・FIT対象バイオマス燃料は林野庁ガイドラインに基づく証明が必要
不可抗力免責・商社等の供給不能時の免責
・SPCの発電停止等の場合のリスク分担

太陽光発電では燃料は太陽光そのものであるため、この契約は直接該当しません。しかし、「安定的な発電環境の確保」という広義の視点では、後述の土地利用権や日照確保のための周辺環境配慮などが重要になります。

6. 土地利用権設定契約:事業用地の長期安定確保

特に発電所プロジェクトでは、事業期間を通じた事業用地の利用権(地上権や賃借権)の確保が不可欠です。太陽光発電は広大な土地を必要とするため、この契約の重要性は非常に高いです。

主要項目ポイント
契約期間・設工事開始から事業期間終了までをカバー
(民法の賃貸借期間上限が20年から50年に延長)
・地権者からの解除を限定
・FIT事業は20年以上の長期契約が必須
対象エリア・対象施設設置場所をすべてカバー
・送電線(自営線)ルートに公用地が含まれる場合、道路占用許可等の取得が必要(1年更新が通常)
・火力発電所で輸入燃料使用時は、海岸沿い公有地が事業用地になる場合がある
地代等CF安定化を確保するため、地代等の固定化が望ましい
対抗要件(登記)・事業用地利用権(地上権/賃借権)の設定登記
・担保権設定登記に関する協力
(事業用地利用権の種類、担保権種別に応じた事前承諾、地権者の協力義務など)
・自治体から払下げを受ける場合、売主から買戻し登記を要請されることもある
※地上権や登記された賃借権は、土地所有者が変わっても権利を保持できる「対抗力」を持つため重要
地権者の責任・表明保証責任/契約不適合担保責任(例:土壌汚染、埋蔵物など)
・コベナンツ(境界紛争解決、周辺住民対応など)
・SPCに生じた損害をカバーする損害賠償範囲の設定

7. 保険契約:カバーしきれないリスクへの備え

プロジェクトファイナンスでは、保険を活用して当事者だけでカバーしきれないリスクを軽減します。保険コンサルタント等専門家の検証を経て、建設中と操業中に分けて以下の保険を付保します。地震保険はPML値に基づき、保険料水準もCF観点で検討します。保険会社の財務健全性(外部格付等)も重要です。

保険種目(一般的な発電事業における例)

フェーズ保険種類カバーされるリスク
建設期間中組立保険 (+地震保険)・工事現場等で目的物に生じた不測かつ突発的な事故による損害をカバー
・対象リスク:事故(地震等を除く)による工事目的物の損害
・契約者:SPC/被保険者:SPC、EPC企業、下請業者等
輸送保険・資材等輸送中(海上・陸上・航空)に生じた偶発事故による損害をカバー
開業遅延保険・操業開始遅延による予定収益減少をカバー(予定利益、経常費等)
・対象リスク:事故(地震等を除く)による工事遅延による逸失利益
・契約者:SPC/被保険者:SPC
第三者賠償責任保険・工事遂行中に第三者の生命・身体や財物を損壊した場合の賠償責任をカバー
・対象リスク:工事起因の第三者賠償責任
・契約者:SPC(EPC企業)/被保険者:SPC、EPC企業、下請業者、レンダー等
操業期間中財物保険 (+地震保険)・未然かつ突発的な事故による物的損害をカバー
・対象リスク:事故(地震等を除く)による対象施設の損害
・契約者:SPC/被保険者:SPC
(例:太陽光パネル破損や盗難など)
利益保険 (+地震保険)・事故による物的損害で操業停止・阻害が発生した場合の休業損失(固定費相当分)をカバー
・対象リスク:事故(地震等を除く)による休業損失
・契約者:SPC/被保険者:SPC
(例:発電停止による売電収入逸失)
第三者賠償責任保険・操業に起因し第三者の生命・身体や財物に損害を与えた場合の賠償責任をカバー
・対象リスク:所有・使用・管理起因の第三者賠償責任
・契約者:SPC/被保険者:SPC、レンダー
(例:設備が原因で第三者に損害)

レンダーが保険に求める条件の例

条件具体的内容
保険代位の権利放棄保険金支払後に保険会社が代位取得する権利を、被保険者およびレンダーに対して行使しない
保険証券の変更・取消の禁止保険契約者・被保険者から要請があっても、レンダーの了解なく保険会社は契約をキャンセル・条件変更できない
効力無効禁止保険料不払いや契約条件違反で証券が無効化されそうな場合、保険会社はレンダーに通知し、状況回復期間を設けなければならない
レンダーによる保険料の支払保険料支払遅延時、事前にレンダーに通知すればレンダーが支払えるが、義務は負わない
被保険者の追加レンダーを被保険者に追加し、レンダーも保険金受取人となる
保険金受取人保険金はレンダーのエージェント指定口座へ支払う

これら条件は保険会社との交渉が必要で、保険料が上乗せされる可能性もあります。再保険会社を利用する場合も同様に交渉が必要となります。

8. プロジェクトファイナンスに特有の契約規定

プロジェクト関連契約には、プロジェクト継続性確保とレンダーのステップイン権(担保権)確保のため、各関係当事者の権利行使を制限する定型条項が必要です。

項目ポイント
責任財産限定特約SPCが負担する債務の引当てとなる財産をSPCが有する資産に限定し、債権額が責任財産を超えた場合、債権者が超過部分を放棄する誓約を取得。
※SPCの資産がマイナスになることを回避し、倒産を防止
倒産不申立特約SPCに対する倒産手続開始申立権を有する債権者が、事前に申立てを行わない誓約を取得。
※SPCに対する倒産申立を手続面で回避
強制執行等不申立特約SPCに対する債権者の強制執行等の申立を行わない誓約を取得。
法定担保権の放棄EPC企業等がSPC保有の事業に不可欠な資産に対する法定担保権を予め放棄する旨を規定(EPC契約等)。
相殺禁止相手方による相殺による資金回収を禁止し、プロジェクト関係者間で合意したキャッシュウォーターフローに従った資金管理を確保。
Cure Right(治癒条項)相手方が解除権を有する場合、融資金融機関への通知と、融資金融機関が解除原因を是正する機会を与えることを義務付ける条項。
担保設定への事前承諾・対抗要件具備SPCの全資産(関連契約上の債権・地位等を含む)に担保を設定するため、事前承諾および登記など対抗要件具備への協力を規定。

これら特有規定はすべての契約に含める必要はなく、契約性質や重要度に応じて検討します。


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