【第3回】プロジェクトファイナンスの核心 – リスク分担と契約戦略

プロジェクトファイナンス

プロジェクトファイナンスを成功させるためには、プロジェクトに潜む様々なリスクをいかにコントロールし、関係者間で適切に分担するかが非常に重要になります。

1. プロジェクトリスクへの基本的な対応方針

プロジェクトファイナンスは、プロジェクトから生じるCFのみを引当てとしたリミテッドリコース/ノンリコースのファイナンスであるため、SPCに残存するプロジェクトリスクを最小化し、債務不履行(デフォルト)の可能性を可及的に排除することが必要です。

そのための基本的な対応方針は以下の通りです。

  • リスクの徹底的な洗出し
    プロジェクトに潜むあらゆるリスクを特定します。これには、各種専門家のデューディリジェンス(DD)が不可欠です。
  • 関係者間でのリスクの合理的な分担
    特定されたリスクを、プロジェクトに関わる各当事者間で合理的に分担します。基本的な考え方は、「各リスクについて、最もリスクをコントロールできる立場にいる当事者がリスクを負担することにより、プロジェクト全体としてのリスクを最小化」するというものです。

そして、これらのリスクに対応するための主な手段として、以下の3つが挙げられます。

  1. プロジェクト関連契約における関係者間でのリスク分担
  2. 保険
  3. 財務/金融手法(キャッシュリザーブ、デリバティブ、メザニンローン等)

2. 主要なプロジェクトリスクと一般的な対応策

プロジェクトには様々なリスクが存在します。ここでは、太陽光発電事業にも関連の深い主要なリスクと、その一般的な対応策をフェーズごとに見ていきましょう。各種プロジェクトリスクを分析したうえで、調達金額・調達期間等の各種ファイナンス条件を設定します。

(1)プロジェクト期間全体を通じて存在するリスク

主なリスク項目具体例主な対応方法
スポンサーリスク事業運営能力の不足、信用不安、匿名組合スキームを用いた場合の匿名組合性否認等実績あるスポンサーの参画、エクイティファースト、他のスポンサーによる出資義務の補完、スポンサーサポート。
財務体力(例:外部格付維持など)、事業管理体制、類似事業実績の検証。長期的な事業戦略との合致確認。エクイティ先行拠出。
用地リスク事業期間中の土地利用権の消滅、賃料の増加、土壌汚染等土地利用権設定契約による手当て(太陽光発電では20年以上の長期契約が多いため特に重要)。
許認可リスク許認可の取得不能、更新不能等EPC契約、O&M契約、AM契約、SPCマネジメント契約等による手当て(太陽光発電事業ではFIT認定、林地開発許可、農地転用許可などが該当)。
不可抗力リスク地震、津波、落雷等の自然災害、電気事故等。不可抗力イベントが発生した場合の事業の継続可否、事業の原状回復にかかる費用負担。
(注)1. 災害、戦争、収用、内乱、法制度変更、天災など
保険、キャッシュリザーブ、(特に地震・津波等に関する)スポンサーサポート。発生時の復旧費用に充当するキャッシュリザーブの設定、保険付保。本邦では、地震・津波・液状化に備えた特約の付保が推奨されています。
金利変動リスク借入金利の増加金利ヘッジ取引(金利スワップなどにより変動金利を固定金利に)。
為替リスク輸入機器、輸入燃料等の調達コスト増加為替予約取引。為替予約・通貨オプションによる為替変動の抑制(監査法人・会計士宛に、会計処理〈ヘッジ会計〉について要確認)。
(太陽光パネルを海外から調達する場合など)
法令等変更リスク法制度の変更、税制の変更、収用・接収等。対象事業に係る法令等の変更により、借入人が事業を継続できないリスクや費用の増加によるキャッシュフロー変動。公的金融機関によるカバー(主に海外案件)。スポンサー企業による借入人への追加資金供給、発注者による事業権の買取等、業務受託企業へのパススルーの仕組み構築。(FIT制度の変更などが太陽光事業では大きなリスクとなり得る)
環境リスク環境法規制への抵触、周辺住民への影響など。環境法規制、周辺住民配慮、赤道原則への遵守状況確認。国内外の火力発電向けプロファイに関する環境DD経験が豊富なコンサルタントが候補です。
(太陽光発電所の建設・運営に伴う景観や騒音、反射光問題など)
リーガルリスク契約不備、法解釈の誤りなど。弁護士によるリーガルチェック、契約内容の精査。
資金調達リスク融資条件の未達、金融市場の変動による資金調達の失敗など。事前の十分な準備、複数の金融機関との協議、コミットメントラインの確保など。
マクロ経済リスクインフレ、デフレ、経済成長率の鈍化など。プロジェクトの収支計画における感応度分析(センシティビティ分析)、固定価格契約の活用。
所在国リスク (カントリーリスク)戦争・内乱、接収・国有化、外貨交換停止、外貨送金停止(主に海外案件)非常危険カバー(ECA、MLAによる保証・保険)、プロジェクト所在国にとっての当該プロジェクトの戦略的重要性を確認、外貨準備高、貿易収支の確認。
第三者賠償リスク対象事業の各ステージにおける第三者賠償リスク。第三者賠償を伴う事故の発生する蓋然性やその規模の分析等、保険付保。

(2)建設(完工)期間中の主なリスク

主なリスク項目具体例主な対応方法
完工リスク工事遅延(タイムオーバーラン)、工事費の増加(コストオーバーラン)等。対象事業で設置される設備に係る建設方法・技術力等、EPCコントラクターの完工能力、建設工事のコスト/タイムオーバーラン、建設契約の内容。EPC契約による手当て(Fixed Price、Full Turnkey、Date Certain契約など)、保険、キャッシュリザーブ。外部コンサルタントによる完工基準・工期・建設費の妥当性検証、EPCコントラクターの業務遂行能力、類似事業実績の有無、スポンサーによる完工保証、保険付保、十分な予備費・建設期間の確保。
技術リスク対象事業に使用される設備・技術が実績ある確立された技術であるか、プラントメーカーの信用力(保証履行能力)。メーカーによる性能保証、製品保証、信頼のあるコンサルタントによる性能・技術力の検証。
(太陽光パネルやパワコンの技術的信頼性、施工品質など)
性能未達リスク仕様書で定めた性能の未達成等。EPC契約による手当て、技術コンサルタントによる仕様書の精査。
(発電量が想定を下回るなど)

(3)運営期間中の主なリスク

主なリスク項目具体例主な対応方法
オフテイクリスク買取量の減少、買取価格の低下等。事業期間に亘るサービス対価支払能力、事業期間に亘る買取契約内容、事業契約解除の蓋然性。オフテイカー契約(売電契約)による手当て(固定価格での長期契約など)、キャッシュスイープ。オフテイカーの長期に亘る買取代金支払能力の確認、事業契約の解除事由の検証、対応策の検討。
(FIT制度下では比較的安定しているが、制度変更リスクは残る)
操業・保守管理リスク事故等による操業停止、機器の不具合等。O&M企業のオペレーション能力。O&M契約による手当て、保険。O&M企業の同種オペレーション実績の検証、性能未達時のO&M企業へのペナルティー設定、他のオペレーターによる代替可能性の確認。
(太陽光パネルの故障、パワコンの故障、自然災害による設備破損など)
原料/燃料供給リスク石炭、LNG等の燃料供給の不足、日射時間、風量の変動等。原料/燃料の量的確保、コスト上昇。燃料供給契約による手当て、代替調達先確保、各種コンサルタントによる検証。信用力のある燃料供給先からの長期での燃料供給契約締結、契約が履行されない場合も勘案した原料/燃料供給の仕組の検討、コンサルタントによる埋蔵量・エネルギー量(太陽光・風力)の確認。
(太陽光発電では日照量不足がこれに該当。発電量予測の精度が重要)
機器性能劣化リスク対象設備を構成する機器の性能劣化等。技術コンサルタントによる性能評価、メーカーからの保証書の取得。
(太陽光パネルの経年劣化による発電効率の低下など)
出力抑制リスク接続先送配電事業者による出力抑制により売電不可。定期点検等の計画停止の期間調整、キャッシュリザーブ。
(特に再エネ導入量が多い地域で発生しやすい。太陽光発電事業者にとっては重要なリスク)
マーケットリスク対象事業の収入の裏づけとなる需給バランス変動、単価変動等、製品の価格競争力。長期オフテイカー契約(販売量の確保)、アベイラビリティ/キャパシティペイメント。
(FIT終了後の売電価格変動リスクなど)
キャッシュフローリスク収入と支出の変動、キャッシュウォーターフォール順位、資金コミングル(混在化)。収入と支出の変動要因の低減(例:収入/支出に係る各種契約書において、固定収入/支出の割合を大きくする)、リスクに応じた適切なDSCRの設定、キャッシュリザーブ若しくは追加資金枠の設定、センシティビティ分析。
(売電収入の変動、O&M費用の増加など)

プロジェクトファイナンスでは、融資期間が長期となるため、スポンサーの長期間に亘る事業遂行能力や長期的な事業戦略との整合性が重要になります。また、完工リスクは、EPCコントラクターの信用力やEPC契約の内容に左右されるため、事前にレンダーとの協議も行っていくことが肝要です。

事業期間中において、安定したキャッシュフローを生み出すためには、安定した操業・保守体制の構築、原料・燃料供給の安定性(太陽光であれば安定した日照と系統接続)、安定したオフテイカー並びにオフテイカー契約等を確保することが重要となります。キャッシュフローリスク低減のために、主要設備の劣化、交換・修繕の影響や燃料価格の変動(太陽光であれば修繕費や保険料の変動など)を見込んだ、保守的な前提条件の設定が求められます。収入・支出共に、可能な限り、長期に亘り、固定化することが望ましいです。

付保される保険は、財物・利益(逸失利益)・第三者損害賠償をカバーする内容であることが望ましく、プロジェクト毎に、必要な保険の内容は変化します。本邦では、地震・津波・液状化に備えた特約の付保が推奨されています。

3. リスクシェアリングの考え方

前述の通り、プロジェクトファイナンスにおけるリスク管理の基本は、リスクを関係者間で適切に分担すること、すなわち「リスクシェアリング」です。

リスクシェアリングとは「当該リスクを最も効率的にコントロールできる主体が、そのリスクを負担する」仕組みを構築することを言います。リスクは、SPCと当該リスクを負担する当事者との間で交わす契約にて規定されることで、当事者に移転されます。契約では明確な役割分担が詳細に規定されます。

例えば、太陽光発電所の建設遅延リスクは、建設工事を直接管理・実行するEPC業者が最もコントロールしやすいため、EPC業者がそのリスクを負担するのが合理的です。同様に、発電量の未達リスク(日照不足を除く、設備の性能に起因するもの)もEPC業者やO&M業者が負うことが考えられます。一方で、FIT価格の変動リスクや大規模な自然災害リスクなどは、個別の事業者だけではコントロールが難しいため、保険やスポンサーによるサポート、あるいはレンダーがある程度受け入れるといった形での分担が検討されます。

このように、各リスクの性質を見極め、それを最も適切に管理できる当事者に移転または分担させることで、プロジェクト全体のリスクを低減し、資金調達の蓋然性を高めていくのです。


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