太陽光事業用地の自然災害リスクマネジメント

ハザード

近年の異常気象を発端として日本各地で自然災害の件数が増加傾向にあり、自然災害の発生確率が今後減少していくとするには根拠があまりにも乏しい。

太陽光発電事業に限らず、事業や生活をする上で自然災害は切っても切り離せない関係だ。

太陽光発電事業においては、自然災害は規模によるが工事中に発生すれば完工遅延、商用運転中であれば発電量停止、といった事態が発生しうる。自然災害リスクを正しく認識したうえで、事業実施の意思決定を行うことが健全な事業運営には必要だ。

本稿では、太陽光発電事業において自然災害リスクとの向き合い方について解説する。

発生しうる自然災害リスクの種類

太陽光発電事業では、主に以下の自然災害と向き合うことになる。

  • 洪水・内水
  • 土砂災害
  • 高潮
  • 津波
  • 液状化
  • 強風
  • 雷害
  • 積雪
  • 火山噴火

リスク対応方法

自然災害に限らず、ISO31000:2018(http://iso31000:2018/)によれば、一般的にリスクは以下の観点で対応する。

  • リスクを生じさせる活動を開始又は継続しないと決定することによってリスクを回避する。(①:回避)
  • ある機会を追求するために,リスクを取る又は増加させる。
  • リスク源を除去する。(②:低減)
  • 起こりやすさを変える。(②:低減)
  • 結果を変える。
  • (例えば,契約,保険購入によって)リスクを共有する。(③:移転)
  • ④情報に基づいた意思決定によって,リスクを保有する。(④:保有)

私は、太陽光発電事業におけるリスクへの対応は①②③④に集約されると考えている。それぞれの原則的な対応法としては、以下の通りになる。

  • ①回避:リスクが無いもしくは低い立地選定
  • ⓶低減:物理対策(工事・物品)、定期点検
  • ③移転:保険付保
  • ④保有:予備費計上とBCP策定

各リスクへの対応一覧

リスク①回避
-立地-
⓶低減
-物理対策・点検-
③移転
-保険-
④保有
-予備費とBCP-
洪水・内水ハザードマップ該当区域を回避
【評価】
コスト:低
実現性:高
高基礎化・機器高所設置
【評価】
コスト:中~高
実現性:中
「水災」特約付
企業総合保険
【評価】
コスト:小~中
実現性:高
予備費とBCP策定

【評価】
コスト:小~高
実現性:低~高
土砂災害同上擁壁・ロックボルト・植生マット
【評価】
コスト:中~高
実現性:低~中
「同上同上
高潮同上高基礎化・防潮堤構築
【評価】
コスト:中~高
実現性:低~中
同上同上
津波同上防潮堤・機器高所設置
【評価】
コスト:中~高
実現性:低~中
地震保険

【評価】
コスト:中~高
実現性:中
同上
液状化同上地盤改良・基礎強化
【評価】
コスト:中~高
実現性:低~中
同上同上
火山噴火灰降下予測・履歴で立地選定
【評価】
コスト:低
実現性:高
耐食性材/定期灰除去洗浄
【評価】
コスト:中
実現性:中
同上同上
強風風況データ・解析で立地選定
【評価】
コスト:低
実現性:高
耐風圧設計・ボルト定期点検
【評価】
コスト:中
実現性:中
標準的な企業総合保険
【評価】
コスト:小~中
実現性:高
同上
雷害落雷頻度で立地選定
【評価】
コスト:低
実現性:高
SPD・等電位接地、定期点検
【評価】
コスト:中
実現性:中
同上同上
積雪降雪量データで立地選定
【評価】
コスト:低
実現性:高
架台傾斜最適化・除雪
【評価】
コスト:中
実現性:中
同上同上

以降、各リスク対応の概論を記載する。

リスク対応①回避

リスクがない土地で事業をする。これに尽きる。

洪水・内水、土砂災害、高潮、津波については、「重ねるハザードマップ」で自然災害リスクを初期的に確認し、最終的には市町村のハザードを確認するのが妥当であろう。

液状化については、おもにPL値()で判断するのがよいだろう。「重ねるハザードマップ」等では「地形の分類」で表現しており、PL値で液状化リスクを判断できない。市町村単位で液状化リスクをマッピングしてないこともあるので、その場合は都道府県で取りまとめているハザードリスクを確認するのがよいだろう。

火山噴火、強風、落雷については、上述のハザードマップのようなものはなく(火山噴火はあるかもしれないがよくわかりません、、)、確実に回避できる方法はないだろう。

積雪については、気象庁の観測所の過去の積雪データや各都道府県が定める建築基準法における各市町村の垂直積雪量で、その影響を確認するのがよいだろう。

リスク対応②低減

物理対策(工事・物品)は、そのリスクの深刻さによってかかるコストが大きく異なる。例えば、洪水の浸水深さが0.5m未満であれば基礎をかさ上げすることで大きなコストをかけずに対策できるが、津波被害を防ぐためには巨大な防潮堤が必要になり、一事業者で対策を行うことは現実的ではない。

発電所構築時の工事・物品による対策以外に、運用期間中の定期点検によりリスク顕在化の可能性の低減およびリスク顕在時の被害を低減することができる。

リスク対応③移転

保険料を支払うことでリスクを保険会社に移転する。ただし、リスクが高い立地では保険料が高いため、発電事業の事業性が圧迫されることになる。

保険付保にあたっては、保険金額を発電設備の再調達価格に設定せず、PML値から計算される被害額を保険金額にすることで、保険料を低減することができる。

保険の内容によっては免責金額が設定されており、免責金額が大きいほど保険料は安くなる。免責金額相当額をリザーブするか否かの判断が必要になる。

リスク対応④保有

上記のリスク対応をした後の残存リスクについては事業者で保有せざるを得ない。リスク顕在時の復旧費用(や保険免責金額相当額のリザーブ)の手当てや早期復旧のためのBCPを作成しておくべきだ。

リスクアセスメント

事業期間中のリスクの発生可能性と発生時の被害の深刻さを鑑みてどのようなリスク対応するかあるいはしないのかを決定することが肝要である。リスクアセスメントでググると多くの解説記事が出てくるので参考にしていただきたい。

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