【はじめに】
本記事では、不動産証券化協会認定マスターの試験科目103「不動産投資の基礎」について、過去の出題傾向を踏まえた頻出論点を体系的に整理し、解説します。学習の総仕上げや、知識の定着度を確認するためのツールとしてご活用いただければ幸いです。
科目:103_不動産投資の基礎
テーマ3-1:AM/PMの役割と業務
核心知識
不動産投資の成功は、効果的なマネジメントにかかっています。このマネジメントは、ファンド全体の「経営・戦略」を担うアセットマネジメント(AM)と、個別不動産の「現場での管理・戦術」を担うプロパティマネジメント(PM)の二階層の連携によって行われます。AMは森全体を見る視点、PMは木一本一本を見る視点と理解すると分かりやすいでしょう。
頻出論点
- AMとPMの役割分担:
- AM(アセットマネジメント): ファンド全体の「経営・戦略」を担当。最終目的は投資家の利益を最大化することです。業務には、投資戦略立案、物件取得・売却、資金調達、PM会社の選定・監督などが含まれます。
- 【ひっかけ注意】
>[誤]
投資家の利益最大化はPMの役割である。
>[正]
ファンド全体の投資家利益最大化はAMの役割です。PMは個別物件の資産価値最大化を目指します。
- 【ひっかけ注意】
- PM(プロパティマネジメント): 個別物件の「管理・戦術」を担当。目的は個別不動産のNOI(純営業収益)を最大化することです。業務は、リーシング、テナント管理、建物維持管理などです。
- AM(アセットマネジメント): ファンド全体の「経営・戦略」を担当。最終目的は投資家の利益を最大化することです。業務には、投資戦略立案、物件取得・売却、資金調達、PM会社の選定・監督などが含まれます。
- AMの業務フロー:
- デューデリジェンス(DD): 物件の物理的・法的・経済的リスクを調査。
- アンダーライティング: DD結果に基づき将来キャッシュフローを予測し、投資採算性を評価。
- ビジネスプラン策定: 投資家やレンダーに提示する最終的な運用計画。配当計画も含む。
- キャッシュマネジメント: PMからの費用請求(ファンディングリクエスト)を審査・承認して支払います。
- PMの業務範囲:
- 広義のPM: 日常的な運営管理に加え、テナント誘致(リーシングマネジメント)や大規模修繕の管理(コンストラクションマネジメント)も含むことがあります。
- テナント工事区分: 入居時の内装工事は、A/B/C工事に区分されます。
- 【ひっかけ注意】
>[誤]
テナントが費用を負担し、自ら業者を選定する工事はB工事である。
>[正]
C工事です。B工事は、ビル側指定業者・テナント費用負担です。
- 【ひっかけ注意】
- 建物管理: 設備管理、清掃、警備などのビルメンテナンス会社(BM)を監督します。資産価値維持のため、計画的な修繕を行う「予防保全」が基本です。
- 【ひっかけ注意】
>[誤]
建物修繕計画は、事後保全を基本とし、予防保全は避けるべきである。
>[正]
逆です。予防保全を基本とすることが資産価値維持に不可欠です。
- 【ひっかけ注意】
- 追加業務: 資産価値を向上させるための改修計画は、通常は追加業務として扱われます。
- AMの意思決定とコベナンツ管理:
- 重要な投資判断は、投資(運用)委員会で経済合理性を、コンプライアンス委員会で遵法性・利益相反を審議します。
- 【ひっかけ注意】
>[誤]
投資委員会は、物件の遵法性や利益相反を審議する。
>[正]
コンプライアンス委員会の役割です。投資委員会は経済合理性を審議します。
- 【ひっかけ注意】
- レンダーは、LTV(有利子負債比率)やDSCR(元利金返済カバー率)に関するコベナンツを要求します。
- 【ひっかけ注意】
>[誤]
LTVコベナンツは、LTVが基準値を下回ることを禁止する。
>[正]
基準値を上回ることを禁止します。
- 【ひっかけ注意】
- 重要な投資判断は、投資(運用)委員会で経済合理性を、コンプライアンス委員会で遵法性・利益相反を審議します。
暗記のポイント
- AM = 経営・戦略(森を見る) vs PM = 管理・戦術(木を見る)
- B工事 = ビル指定業者・テナント負担
- 投資委員会 → 儲かるか? vs コンプライアンス委員会 → ルール違反はないか?
テーマ3-2:不動産市場分析
核心知識
不動産投資の意思決定には、金利や景気といったマクロ経済動向の分析に加え、投資対象となる各アセットタイプ(オフィス、住宅、商業施設など)の需給動向を分析することが不可欠です。そのために、公的地価や各種の市場統計データを正しく理解し、その意味するところを読み解く能力が求められます。
頻出論点
- 公的地価の比較:
- 地価公示: 調査主体は国、基準日は1月1日。
- 基準地価: 調査主体は都道府県、基準日は7月1日。都市計画区域外も対象。
- 【ひっかけ注意】
>[誤]
地価公示の調査主体は都道府県である。
>[正]
国(国土交通省)です。都道府県が主体なのは基準地価です。
- 【ひっかけ注意】
- 相続税路線価: 国税庁、1月1日基準、価格水準8割目安。
- 固定資産税評価: 市町村、3年ごと1月1日基準、価格水準7割目安。
- オフィス市場:
- ストックの構成: 棟数ベースでは中小規模ビルが大部分ですが、面積ベースでは大規模ビルが約半分を占めます。
- 【ひっかけ注意】
>[誤]
東京23区の大規模ビルは、棟数ベースでも過半数を占める。
>[正]
棟数ベースでは1割以下です。面積ベースでは大きな割合を占めます。
- 【ひっかけ注意】
- 需給指標: 調査機関によって空室率の算出基準が異なるため、単純比較はできません。
- 【ひっかけ注意】
>[誤]
異なる調査機関が公表する空室率は、同じ基準で算出されている。
>[正]
調査対象や空室の定義が異なるため、単純比較はできません。
- 【ひっかけ注意】
- ストックの構成: 棟数ベースでは中小規模ビルが大部分ですが、面積ベースでは大規模ビルが約半分を占めます。
- 住宅市場:
- 日本の人口は減少していますが、世帯数は増加しているため、総住宅数は増加を続けています。
- 【ひっかけ注意】
>[誤]
日本の総住宅数は、人口減少に伴い減少している。
>[正]
世帯数が増加しているため、総住宅数は増加しています。
- 【ひっかけ注意】
- コロナ禍で東京23区の人口は一時転出超過となりましたが、2022年以降は転入超過に戻っています。
- 日本の人口は減少していますが、世帯数は増加しているため、総住宅数は増加を続けています。
- 商業・ホテル・物流:
- 売上歩合賃料: 貸主もテナントの売上変動リスクを負います。
- 訪日外客数: 2024年に過去最高を更新しました。
- 【ひっかけ注意】
>[誤]
2023年の訪日外客数は、過去最高を記録した。
>[正]
テキスト執筆時点(2023年)では過去最高ではありませんでしたが、その後の実績で2024年に過去最高を更新しています。試験の基準日に注意が必要です。
- 【ひっかけ注意】
- 物流施設: EC市場規模とEC化率はともに一貫して上昇傾向です。
テーマ3-3:不動産投資評価(DDと鑑定評価)
核心知識
不動産投資の意思決定において、デューデリジェンス(DD)によるリスクの洗い出しと、不動産鑑定評価による価値の把握は車の両輪です。DDでは、エンジニアリングレポート(ER)などを通じて建物の物理的状態や遵法性を確認し、鑑定評価では、原価法・取引事例比較法・収益還元法の三手法を用いて不動産の経済価値を多角的に判定します。これらの正確な知識が、適切な投資判断の基礎となります。
頻出論点
- デューデリジェンス (DD):
- 目的: 投資リスクの把握、リスク軽減策の構築、適正投資価値の把握。
- 情報源: レントロールは概要であり、賃貸借契約書の原文確認が必須。日本の不動産登記には公信力がないため、登記内容を鵜呑みにせず、現地調査等が重要です。
- 【ひっかけ注意】
>[誤]
日本の不動産登記には公信力があるため、登記簿謄本の内容を信じて取引すれば保護される。
>[正]
公信力はないため、真の権利者でない場合は保護されません。
- 【ひっかけ注意】
- 遵法性調査:
- 建築プロセス: 建築確認申請→確認済証→完了検査→検査済証。遵法性を最終的に証明するのは検査済証。
- 既存不適格建築物: 建築時は適法だったが、法改正で現行法に不適合になった建物。違法建築ではないが、増改築時に現行法が遡及適用されます。
- 地震リスク評価 (PML):
- 定義: 再現期間475年の地震で想定される最大損失率。
- 新耐震基準: 人命保護が目的の最低基準。新耐震でもPML評価は必須。
- 【ひっかけ注意】
>[誤]
新耐震基準を満たしていれば、PML評価は不要である。
>[正]
新耐震は人命保護のための最低基準であり、経済的損失を評価するPMLは別途必要です。
- 【ひっかけ注意】
- 構造耐震指標であるIs値は、0.6以上で倒壊・崩壊の危険性が低いと判断されます。
- 【ひっかけ注意】
>[誤]
地震の危険性が低いのは、Is値が低いほどである。
>[正]
高いほど安全です。Is値が0.6以上が目安です。
- 【ひっかけ注意】
- 不動産鑑定評価の三手法:
- 原価法: 再調達原価 – 減価修正 = 積算価格。
- 取引事例比較法: 類似の取引事例と比較・補正 = 比準価格。
- 収益還元法: 将来の純収益を還元・割引 = 収益価格。
- 【ひっかけ注意】
>[誤]
原価法で算出される試算価格は比準価格である。
>[正]
積算価格です。比準価格は取引事例比較法です。
- 【ひっかけ注意】
- 収益還元法の計算:
- 直接還元法: 収益価格 = 純収益 (NCF) ÷ 還元利回り (キャップレート)
- DCF法: 収益価格 = (各期の純収益の現在価値の合計) + (復帰価格の現在価値)。
- 【ひっかけ注意】
>[誤]
DCF法における復帰価格は、保有期間満了時の売却価格そのものである。
>[正]
売却価格から売却費用を控除した後の正味の金額です。
- 【ひっかけ注意】
- 最終還元利回りは、将来の不確実性等を考慮し、価格時点の還元利回りより高い水準に設定されるのが一般的です。
- 【ひっかけ注意】
>[誤]
DCF法の最終還元利回りは、価格時点の還元利回りと同じ水準に設定される。
>[正]
将来リスクを織り込むため、一般的に高い水準に設定されます。
- 【ひっかけ注意】
暗記のポイント
- 原価法 → 積算価格
- 取引事例比較法 → 比準価格
- 収益還元法 → 収益価格
テーマ3-4:ESG・サステナビリティ
核心知識
ESG(環境・社会・ガバナンス)は、企業の財務情報だけでなく、非財務的な側面も考慮して投資判断を行うアプローチであり、不動産投資においてもその重要性が世界的に増しています。GRESBのような評価フレームワークや、CASBEEなどのグリーンビルディング認証は、ESGへの取り組みを具体的に評価し、実践するための重要なツールです。
頻出論点
- 国際的な枠組み:
- PRI (責任投資原則): 2006年に国連が提唱した、機関投資家が投資にESG視点を組み込むための行動原則。
- TCFD: 気候関連の財務情報開示を促すためのタスクフォース。2023年に役割を終え、ISSBに引き継がれました。
- CRREM: 脱炭素化に向けた移行リスク(座礁資産化リスク)を管理するためのツールです。
- 【ひっかけ注意】
>[誤]
CRREMは、台風や洪水といった物理リスクを管理するためのツールである。
>[正]
脱炭素社会への移行リスクを管理するためのツールです。
- 【ひっかけ注意】
- 評価・認証制度:
- GRESB: 不動産会社・ファンド単位でのESGへの取り組みを総合的に評価する国際的なベンチマーク。
- 【ひっかけ注意】
>[誤]
GRESBは、個別の建物の環境性能を評価する制度である。
>[正]
不動産会社・ファンド単位でのESG総合評価です。
- 【ひっかけ注意】
- グリーンビルディング認証(物件単位):
- CASBEE: 日本で開発された総合環境性能評価。
- LEED: 米国発の国際的な総合環境性能評価。
- BELS: 日本の省エネルギー性能に特化した評価。
- 【ひっかけ注意】
>[誤]
BELSは、CASBEEと同様に、建物の環境性能を総合的に評価する制度である。
>[正]
BELSは省エネルギー性能に特化した制度です。総合評価はCASBEEやLEEDです。
- 【ひっかけ注意】
- WELL認証: 米国発の、人の健康や快適性(ウェルネス)に特化した認証。
- GRESB: 不動産会社・ファンド単位でのESGへの取り組みを総合的に評価する国際的なベンチマーク。
- グリーン・プレミアム:
- グリーンビルディング認証物件が、非認証物件に比べ高い賃料や価格で取引される現象。日本国内でも実証研究により確認されています。
- 【ひっかけ注意】
>[誤]
日本市場ではグリーン・プレミアムは観測されていない。
>[正]
複数の実証研究により存在が確認されています。
- 【ひっかけ注意】
- グリーンビルディング認証物件が、非認証物件に比べ高い賃料や価格で取引される現象。日本国内でも実証研究により確認されています。
【おわりに】
今回は、科目103「不動産投資の基礎」の要点について解説しました。AMとPMの役割分担から、市場分析、投資評価、そしてESGに至るまで、不動産投資の実務に直結する重要な知識が問われます。各用語の定義と実践的な意味合いをセットで理解することが大切です。
次回は、科目104「不動産証券化の法務・会計・税務」について解説します。引き続き、合格に向けて学習を進めていきましょう。
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