不動産投資の収益の源泉は、言うまでもなく「賃料」です。しかし、契約書に記載されている月額賃料が、そのままオーナーの収益やテナントの負担になるわけではありません。フリーレントや共益費、特殊な賃料形態など、実質的なキャッシュフローを左右する様々な要素が存在します。
本記事では、不動産実務家がリーシング(賃貸借)業務を行う上で必ず理解しておくべき、実質的な賃料の考え方と、重要な契約条項について解説します。
「実質的な賃料」を算出する
まず、額面の賃料だけでは見えてこない、実質的な賃料の概念を理解しましょう。
ネット・エフェクティブ・レント (Net Effective Rent)
ネット・エフェクティブ・レント(実質有効賃料)とは、フリーレント(一定期間の賃料無料化)などの各種割引(コンセッション)を考慮した、テナントが実際に支払う平均的な賃料のことです。
例えば、月額賃料100万円、契約期間2年の契約で、最初の2ヶ月がフリーレントだった場合、テナントが支払う総額は 100万円 × 22ヶ月 = 2,200万円
となります。これを契約期間の24ヶ月で割ることで、月額あたりの実質的な賃料(約91.7万円)が算出されます。オーナーにとっては、この実質賃料が実際の収益を測る上で重要になります。
ロス・トゥ・リース (Loss to Lease – LTL)
ロス・トゥ・リースとは、現在の契約賃料(In-Place Rent)が、現在の市場賃料(Market Rent)よりも低い場合に発生する「逸失利益」のことです。
例えば、2年前に月額50万円で契約したテナントがいて、現在の市場賃料が月額55万円に上昇している場合、オーナーは本来得られるはずだった月額5万円を「失っている」と見なせます。このLTLが大きい物件は、将来の契約更新時に賃料を増額できるポテンシャル(アップサイド)を秘めていると評価できます。
日割り賃料 (Prorated Rent)
これは、テナントが月の途中に入居、または退去する際に、その月の賃料を実際に占有した日数で按分(あんぶん)して計算することです。実務上、月の初日や末日にきっちり入退去することは稀なため、必ず発生する計算と言えます。
特殊な賃料形態と費用負担
特に商業施設などでは、固定賃料以外にも様々な賃料形態や費用負担の取り決めが存在します。
歩合賃料 (Percentage Lease)
歩合賃料とは、主に商業施設のテナント(特に物販や飲食)で採用される契約形態です。テナントは、毎月固定の「最低保証賃料(ベースレント)」に加えて、売上が一定額(ブレークポイント)を超えた場合に、その超過分の数%を上乗せしてオーナーに支払います。
この方式は、テナントの売上が低い時期の負担を軽減する一方で、売上が好調な時期にはオーナーもその恩恵を受けられるため、双方の利害を一致させる効果があります。
歩合賃料のメリット・デメリット
テナント側(借主) | オーナー側(貸主) | |
---|---|---|
メリット | ・最低保証賃料が低めに設定される ・売上が不調な時期のリスクを軽減できる | ・テナントの売上に応じて賃料収入の上昇が見込める ・テナントの事業に関与するインセンティブが働く |
デメリット | ・売上が好調な時に支払額が増える ・売上報告の義務が生じる | ・テナントの売上次第で収入が不安定になる ・テナントの売上管理が必要になる |
共益費 (Common Area Maintenance – CAM)
共益費(または管理費)は、ロビー、廊下、エレベーター、駐車場といった共用部分の維持管理(清掃、警備、光熱費など)に必要な費用を、各テナントがその専有面積に応じて按分して負担するものです。これは固定賃料とは別に請求されます。
占有コスト率 (Occupancy Cost Percentage)
占有コスト率とは、特に商業テナントの経営状況を測るために使われる「健全性指標(ヘルス・レシオ)」です。
占有コスト率 (%) = (賃料 + 共益費などの総占有コスト) ÷ テナントの総売上高
この比率が業界の標準的な水準(例えば、飲食業界では10%前後など)を大幅に超えている場合、テナントは賃料負担が重すぎて経営が成り立たず、将来的に退去してしまうリスクが高いと判断されます。
まとめ
不動産のリース契約は、単に月額賃料を決めるだけではありません。
- 実質賃料: フリーレントや市場相場との比較(LTL)を通じて、真の収益性を把握する。
- 契約形態: 歩合賃料やCAMの取り決めが、双方のキャッシュフローにどう影響するかを理解する。
- テナントの健全性: 占有コスト率などを見て、テナントが長期的に安定して賃料を支払い続けられるかを評価する。
これらの実務的な契約内容を深く理解することが、安定した不動産経営と、投資価値の最大化に繋がるのです。
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