ホテル投資の重要指標 – ADRとRevPARを理解する

不動産

オフィスビルや住居系マンションといった一般的な不動産が、月単位・年単位の長期的な賃貸借契約によって収益を生み出すのに対し、ホテルやリゾートといったホスピタリティアセットは、「1泊」という極めて短期の契約で収益を積み上げていきます。

そのため、その運営パフォーマンスを評価するには、独自のKPI(重要業績評価指標)が必要となります。その中でも特に重要なのが、「ADR(平均客室単価)」「RevPAR(販売可能客室数あたり収益)」です。

本記事では、ホテル投資の分析に不可欠なこれら2つの指標について、その定義、計算方法、そして実務における使い方を解説します。

ADR (Average Daily Rate) – 平均客室単価

ADR(Average Daily Rate)は、特定の日に販売された客室1室あたりの平均販売価格を示す指標です。シンプルに「その日、部屋は平均いくらで売れたのか」を表します。

ADR = 総客室売上 ÷ 販売済み客室数

例えば、あるホテルの1日の総客室売上が600万円で、その日に販売(占有)された客室数が200室だった場合、ADRは以下のようになります。

ADR = 600万円 ÷ 200室 = 30,000円

ADRは、ホテルの価格設定戦略がどの程度市場に受け入れられているかを示す重要な指標です。しかし、ADRだけではホテルの全体的な収益性を判断することはできません。なぜなら、この指標は空室の影響を考慮していないからです。たとえADRが高くても、ほとんどの部屋が空室であれば、ホテル全体の収益は低くなってしまいます。

RevPAR (Revenue Per Available Room) – 販売可能客室数あたり収益

そこで登場するのがRevPAR(Revenue Per Available Room)です。これは、販売可能な「全客室」1室あたり、どれだけの収益を上げたかを示す指標です。ADRが「単価」の指標であるのに対し、RevPARは「単価」と「稼働率」の両方を考慮した、より総合的な収益性指標と言えます。

RevPARには2つの計算方法があります。

計算方法1:
RevPAR = 総客室売上 ÷ 販売可能総客室数

計算方法2:
RevPAR = ADR(平均客室単価) × 稼働率(Occupancy Rate)

先ほどの例で、ホテルの販売可能総客室数が250室だった場合を考えてみましょう。

稼働率 = 200室(販売済み) ÷ 250室(販売可能) = 80%

この稼働率を使ってRevPARを計算すると、以下のようになります。

RevPAR = 30,000円 (ADR) × 80% (稼働率) = 24,000円

これは、空室も含めた全250室が、1室あたり平均して24,000円の売上を上げたことを意味します。

ADRとRevPARの実務的な使い方

この2つの指標の関係性を理解することが、ホテルの運営状況を分析する鍵となります。

指標計算対象何を示すか
ADR販売された客室のみ販売された客室の「平均単価」
RevPAR全ての販売可能客室全客室の「平均的な収益力」

ホテル経営者は常に、ADRと稼働率のトレードオフの関係に直面します。

  • 価格を上げる(ADR↑)と、客足が遠のき稼働率は下がる(稼働率↓)かもしれない。
  • 価格を下げる(ADR↓)と、稼働率は上がる(稼働率↑)かもしれないが、一室あたりの利益は減る。

このトレードオフの中で、最終的にRevPARを最大化する価格設定と販売戦略を見つけ出すことが、ホテル運営の目標となります。実務では、このRevPARを競合ホテル群(コンペティター・セット)と比較したり、前年同月比で成長率を見たりすることで、自ホテルのパフォーマンスを評価し、次の一手を考えていきます。

まとめ

ホテルアセットの収益性を評価する上で、ADRとRevPARは車の両輪のような関係です。

  • ADRは、ホテルの価格設定の強さ、ブランド力を示す「単価」の指標。
  • RevPARは、その価格設定と、どれだけ客室を埋められたかという「販売量(稼働率)」を掛け合わせた、「総合的な収益力」の指標。

ホスピタリティ分野の不動産を分析する際には、この2つの指標を常にセットで確認し、そのバランスから運営戦略を読み解く視点が不可欠です。

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