不動産投資の成功は、多くの場合、適切な条件での融資獲得にかかっています。では、銀行などの金融機関は、融資の可否や融資額を決定する際に、物件の何を、どのように評価しているのでしょうか。
その審査プロセスの根幹をなすのが、**「LTV(Loan to Value)」「DSCR(Debt Service Coverage Ratio)」「Debt Yield(デットイールド)」**という3つの主要な財務指標です。
本記事では、不動産実務家が金融機関と対等に話をするために不可欠な、これら3大融資審査指標のそれぞれの意味、計算方法、そして金融機関が設定する一般的な基準について解説します。
LTV (Loan to Value) – 担保価値と借入比率
LTVは、物件の価値に対して、借入金の割合がどれくらいかを示す指標です。日本語では「総資産有利子負債比率」などと訳されます。これは、融資の安全性を測る最も基本的な物差しです。
LTV (%) = 借入金額 ÷ 物件の鑑定評価額
金融機関の視点では、LTVが低いほど、投資家(借主)の自己資金投入額が大きく、万が一返済が滞っても物件を売却すれば貸したお金を回収できる可能性が高まるため、安全な融資と判断されます。
- 一般的な基準: 多くの金融機関では、LTVの上限を**70%~80%**に設定しています。
- 関連指標:
- LTC (Loan to Cost): 鑑定評価額の代わりに、開発や改修にかかる総コストを分母に使います。開発案件で用いられます。
- LTPP (Loan to Purchase Price): 鑑定評価額の代わりに、実際の購入価格を分母に使います。
DSCR (Debt Service Coverage Ratio) – 収益と返済能力
DSCRは、物件が生み出す純営業収益(NOI)が、年間の借入金返済額(元本と金利の合計)をどれだけ上回っているかを示す指標です。日本語では「借入金償還余裕率」と訳され、物件のキャッシュフローがローン返済を賄うのに十分かどうかを直接的に示します。
DSCR = 純営業収益 (NOI) ÷ 年間デットサービス (ADS)
DSCRが1.0倍であれば、NOIと年間返済額が同額であることを意味し、余裕が全くない状態です。そのため、金融機関は空室リスクなどを考慮し、一定のバッファーを求めます。
- 一般的な基準: 多くの金融機関では、DSCRの最低基準を1.20倍~1.25倍以上に設定しています。1.25倍であれば、ローン返済に必要な額の125%の収益を物件が生み出していることになり、安全性が高いと評価されます。
3Debt Yield (デットイールド) – 借入金に対する収益率
Debt Yieldは、LTVやDSCRの弱点を補うために、特にCMBS(商業用不動産担保証券)の分野で重視されるようになった比較的新しい指標です。借入金額に対して、物件のNOIが何%かを示します。
Debt Yield (%) = 純営業収益 (NOI) ÷ 借入金額
この指標は、金利や返済期間(アモチゼーション)といった変動要素に影響されない、純粋な「物件の収益力 vs 借入金」の関係を示します。金融機関にとっては、万が一物件を差し押さえることになった場合に、投下した資金(融資額)に対して期待できるリターン(NOI)を直接的に示すため、非常に重要なリスク指標となります。
- 一般的な基準: 金融機関は、最低でも**8%~10%**程度のデットイールドを求めることが多いです。
総合的なローンサイジングの実践
実務では、金融機関はこれら3つの指標を制約条件として用い、それぞれの基準で算出される融資額のうち、最も低い金額を融資額の上限(ローンサイジング)とします。
以下の表は、3つの制約条件から最大融資可能額を決定する計算例です。
ローンサイジングの計算例
項目 | 値 | 計算 |
Underwritten NOI | $2,000,000 | |
Market Cap Rate | 8.0% | |
Property Value | $25,000,000 | NOI / Cap Rate |
制約条件 | 基準値 | 最大融資額 |
Max. LTV | 70.0% | $17,500,000 |
Min. DSCR | 1.25x | $19,531,250 |
Min. Debt Yield | 8.0% | $25,000,000 |
最終的な最大融資額 | $17,500,000 |
この例では、LTV基準で算出された$17.5Mが最も厳しいため、これが融資額の上限となります。
まとめ
金融機関が融資を審査する際に見ているのは、単一の指標ではありません。
- LTV: 物件の担保価値に対するリスク
- DSCR: 日々のキャッシュフローによる返済リスク
- Debt Yield: 万が一の際の、 lender’s return on investment
これら3つの指標を多角的に評価することで、融資の安全性を判断しています。不動産投資家として、自身の物件がこれらの基準をクリアできるかを事前にシミュレーションすることが、融資戦略を成功させるための鍵となります。
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