不動産投資の魅力の一つに「レバレッジ効果」があります。借入を利用することで、少ない自己資金でも大きな資産を動かし、リターンを飛躍的に高めることが可能です。
しかし、レバレッジはリターンを増幅させる一方で、リスクも同様に増幅させる「諸刃の剣」です。使い方を誤れば、リターンを大きく損なう「負のレバレッジ」という事態に陥ることもあります。
本記事では、このレバレッジがリターンに与える影響のメカニズムを、「正のレバレッジ」と「負のレバレッジ」という二つの側面から、具体的な計算例を交えて徹底的に解説します。レバレッジの基本 – なぜ借入でリターンが向上するのか?
レバレッジの基本的な仕組みは、他人資本(借入金)を利用して、投資に要する自己資金(エクイティ)の割合を減らすことにあります。
物件が生み出す収益(NOI)の額は、自己資金で買おうが借入をして買おうが変わりません。しかし、リターンの計算の分母となる自己資金が小さくなるため、自己資金に対するリターン率(CCRなど)は向上します。これがレバレッジの基本的な効果です。
不動産投資でレバレッジを成功させるための大原則は、ただ一つです。
「物件が生み出すリターン(利回り) > 借入のコスト(金利)」
この条件が満たされている限り、借入はリターンを押し上げる味方となります。
「正のレバレッジ」が生まれる条件
**正のレバレッジ(Positive Leverage)**とは、上記の原則通り、物件の利回り(キャップレート)が借入金利を上回っている状態を指します。この時、自己資金に対するリターン(CCR)は、物件全体の利回り(キャップレート)よりも高くなります。
以下のケースで見てみましょう。
ケースA:レバレッジなし(全額自己資金)
- 物件価格:2億円
- NOI:1,000万円
- 物件のキャップレート:5.0% ($1,000万 ÷ $2億)
- 自己資金:2億円
- CCR(自己資金リターン):5.0% ($1,000万 ÷ $2億)
ケースB:正のレバレッジ
- 物件価格:2億円
- NOI:1,000万円
- 物件のキャップレート:5.0%
- 借入金:1.5億円(LTV 75%)
- 借入金利:4.0%
- 年間支払利息:600万円 ($1.5億 × 4.0%)
- 税引前CF (NOI – 利息):400万円 ($1,000万 – $600万)
- 自己資金:5,000万円 ($2億 – $1.5億)
- CCR(自己資金リターン):8.0% ($400万 ÷ $5,000万)
分析:
このケースでは、物件のキャップレート(5.0%) > 借入金利(4.0%) のため、自己資金リターン(CCR)は**8.0%**まで向上しました。これが正のレバレッジの効果です。
項目 | ケースA (レバレッジなし) | ケースB (正のレバレッジ) |
物件価格 | $200,000,000 | $200,000,000 |
純営業収益 (NOI) | $10,000,000 | $10,000,000 |
物件のキャップレート | 5.0% | 5.0% |
借入金 | $0 | $150,000,000 |
借入金利 | – | 4.0% |
年間支払利息 | $0 | ($6,000,000) |
税引前キャッシュフロー | $10,000,000 | $4,000,000 |
自己資金(エクイティ) | $200,000,000 | $50,000,000 |
CCR (自己資金リターン) | 5.0% | 8.0% |
「負のレバレッジ」の恐怖
**負のレバレッジ(Negative Leverage)**は、その逆の現象です。物件の利回り(キャップレート)よりも借入金利の方が高くなってしまう状態で、借入をすることで、かえって自己資金リターンが低下してしまいます。
ケースC:負のレバレッジ
- 物件価格:2億円
- NOI:1,000万円
- 物件のキャップレート:5.0%
- 借入金:1.5億円(LTV 75%)
- 借入金利:6.0%
- 年間支払利息:900万円 ($1.5億 × 6.0%)
- 税引前CF (NOI – 利息):100万円 ($1,000万 – $900万)
- 自己資金:5,000万円 ($2億 – $1.5億)
- CCR(自己資金リターン):2.0% ($100万 ÷ $5,000万)
分析:
このケースでは、物件のキャップレート(5.0%) < 借入金利(6.0%) のため、自己資金リターン(CCR)は**2.0%**にまで低下しました。全額自己資金で投資した場合の5.0%のリターンよりも悪化しており、借金をしたことで損をしている状態です。
項目 | ケースA (レバレッジなし) | ケースC (負のレバレッジ) |
物件価格 | $200,000,000 | $200,000,000 |
純営業収益 (NOI) | $10,000,000 | $10,000,000 |
物件のキャップレート | 5.0% | 5.0% |
借入金 | $0 | $150,000,000 |
借入金利 | – | 6.0% |
年間支払利息 | $0 | ($9,000,000) |
税引前キャッシュフロー | $10,000,000 | $1,000,000 |
自己資金(エクイティ) | $200,000,000 | $50,000,000 |
CCR (自己資金リターン) | 5.0% | 2.0% |
実務におけるレバレッジ戦略
では、なぜ投資家は負のレバレッジのリスクを冒してまで投資をすることがあるのでしょうか。それは、将来のNOIの成長や、売却時の**キャピタルゲイン(キャップレートの低下による価格上昇)**を強く見込んでいる場合です。現在の利回り関係がマイナスであっても、将来の収益成長や資産価値の上昇が、高い金利コストを上回ると判断した場合、投資は実行されます。
金利上昇局面では、負のレバレッジに陥るリスクが高まります。そのため、自身の投資戦略が、保有期間中のキャッシュフローを重視するのか、将来の売却益を重視するのかを明確にし、金利環境に合わせたレバレッジ戦略を立てることが極めて重要です。
まとめ
レバレッジは不動産投資のリターンを最大化するための強力なエンジンですが、その効果はプラスにもマイナスにも働きます。
- 正のレバレッジ:
物件の利回り > 借入コスト
の時に発生し、自己資金リターンを押し上げる。 - 負のレバレッジ:
物件の利回り < 借入コスト
の時に発生し、自己資金リターンを蝕む。
投資を検討する際には、単純に借入ができるからという理由で安易にレバレッジをかけるのではなく、物件のキャップレートと借入金利の関係性を常に意識し、自分の投資がどちらのレバレッジ状態にあるのかを正確に把握することが、成功への第一歩です。
コメント