FIT制度発足から、爆発的に太陽光発電所用地の開発が行われてきた。ご承知おきの通り、現在においても太陽光発電事業は盛んであり、発電事業適地は減少していく一方だ。こういった背景から、比較的小規模の太陽光発電所、すなわち高圧・低圧の太陽光発電所をバルクで開発するスキームが各社でとられている。
ENEOSリニューアブル・エナジーと低圧太陽光バルク開発で協業 – 太陽光発電のXSOL(エクソル)
バーチャルPPAの太陽光発電所に対するノンリコース型のプロジェクトファイナンス契約を締結 | オリックス銀行
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私の勤務先でも、SPCを設立したうえで高圧バルク太陽光の開発を行っており、私はそのSPCのプロジェクトファイナンスを組成した。
その経験を本稿ではまとめたいと思う。当然、私の勤務先が上記の例の会社かどうか否かは伏せたうえで執筆する。
プロジェクトファイナンス組成に取り組んだきっかけ
- 数十MWの太陽光発電所開発を目標
- 発電所開発を進めていき、COD後に順次ローンを実行
こんなコンセプトでプロジェクトファイナンス組成の検討が当社の偉い人達の間で始まった。
私はプロジェクトファイナンスのぷの字も分からず、元々技術畑を歩んでいたが、ファイナンス・バランスシートの右側の業務の経験を積んでおきたいと思っていたので、この話が出てきたときに手を挙げて本件の担当者となった。
ただ、社内にプロジェクトファイナンス組成実務の経験者がほとんどおらず、属人的に詳しい人がいたのでその人たちに聞きながら、またネットや本を駆使しながらなんとかレンダーの横文字言葉を理解していき、タームシートの交渉から始まった。
キャシュフローモデル
某BIG4のFASにモデル作成を依頼した。キャッシュフローモデルのキャの字くらいしか知らなったのでモデルの理解に時間を要したが、何とか作りを理解することができた。
複数回のローン実行を前提としたモデルで、気づけばファイル容量が30MBを超えていた。動きがもそもそするモデルである。モデルの修正依頼にあたっては、FASとは相当回数やり取りをした。理解の浅かった私の相手をすることになった、FASの担当者には申し訳ないことをした。(でも未経験なんだから仕方ないじゃん)
モデルを作成する場合、FASにどういうコンセプトの事業であるかを明確に伝える必要がある。私のプロジェクトの場合は各発電所COD後に順次ドローダウンをするので、複数回のドローダウンに対応するロジックを精緻に作成してらった。
その他、リザーブの考え方(Opex、オーバーホール、地震保険、デットサービスなど)もレンダーとの協議の内容を適切に反映させる必要がある。
また、デットサイズを決定するためのレンダケース、事業者が事業性評価するためのスポンサーケースのシナリオを評価できるようにモデルを作成してもらう必要がある。需給要因および系統制約による出力抑制率、保険料、発電量超過確率等、レンダーケース・スポンサーケースで多岐にわたるパラメータが変わってくる。
なお、私がモデルのロジックを理解するに当たって苦労したのがdebtscluptingであるが、これについては別稿でまとめているので参考にされたし。
タームシートの合意とLA協議
タームシートの協議で、各契約項目の条件に付いて合意をしたうえで、これを反映したLAをレンダー側で作成することが一般的だ。
私もタームシートの中身を見てボロワーリーガル(ここもBIG4)と協力して、ドキュメンを進めていった。が、ドキュメンの初心者が陥りがちな、「レンダーリーガルコメントを見てボロワーリーガルがいい感じで修正してくれるっしょ」になっていた。
ドキュメン経験者の諸兄らであれば、ビジネスジャッジはあくまで事業者が行うことであって、事業者がどのような意図の文言にしたいかを明確に示さないと、リーガルから適切なアドバイスをもらえないということは常識であるだろうが、当時の私は一個づつ中身を咀嚼する時間も根性もなく、とりあえずボロワーレンダーにコメントしてくれと投げていた。すまんかった、弁護士先生。
LA(Loan Agreement:ローン契約書)はタームシートをベースに契約書として落とし込んでいく。これも相当数のコメントラリーを行ってしまい、当初のレンダーフィーのキャップに早い段階で到達してしまった。とはいっても私一人でタームシート、LA(他にもプロジェクト関連契約、担保間連契約、関係者間も)のドキュメンを担当していたので、分量的にはスムーズに対応することは明らかにできなかった。許して欲しい弁護士先生。
プロジェクト関連契約
EPC、O&M、AM、借地、PPAなどの契約が該当する。
レンダーステップインライト、倒産不申立誓約、相殺禁止等のプロファイ条項をはじめ、事業継続のために必要な項目を各契約のひな型から追加をしていくこととなる。
特に、PPAについてはレンダーからすると、SPCにとって唯一のキャッシュインになる契約であることから、かなりの注文がレンダーから受け協議には苦労した。ただ、今回のスキームのオフテイカーがレンダーから見て相当程度の信頼性があり、LAをはじめかなりの条件を譲歩してもらっていたと、今振り返ってみると思う。例にとると、オフテイク期間が相当に長いことから、ローンテナーも相当に長い期間設定できた(その代わり、ローンスプレッドはあまり小さくならなかったが。)。
担保関連契約ほか
ローン契約にかかるレンダーの各種債権を被担保債権として、プロジェクト関連契約における借入人の債権を対象に根質権・質権の設定契約、発電所を集合動産とした根譲渡担保契約、スポンサーの出資持分を対象に(その他リミテットリコースを規定した)関係者間契約がある。
その他、金利スワップ契約の協議も行った。変動金利支払い分にフロアレートを設定することになったが、これはまだ交渉の余地があったかもしれない。
LAやプロジェクト関連契約と比べると、上記の契約書は論点は少なかったがそれでも合意までは一定程度のラリーが必要となった。
技術DD
バルク発電所のため、特別高圧発電所のような一個ずつ詳細なDDは行っていない。発電所のクライテリアを設定、レンダーと合意をしておき、そのクライテリアに合致していることを表明保証する形をとっている。
当社としては、これまで一定程度の発電所を開発・運営していることから、発電所がそんな不具合は出ないっしょのスタンスでそもそも技術DD不要じゃね?と交渉したが、さすがにまったく0にすることはできなかった。
上長からは「技術DDはレンダーがやりたいって言ってんだから、その費用はレンダーに持たせればいいじゃん」といった主張もあったが、プロジェクトファイナンスの商慣行からは逸脱している主張であり、レンダー側の担当者に伝えても「スプレッドもうちょっとくれるならいいけど、レンダーで負担なんてありえへんで」と、鼻で笑われて終わった。私も書籍で勉強したうえで協議に臨んでいており、自分が伝えたことが商慣習から逸脱していることは理解しており、サラリーマンのつらさを感じた次第だ。
ドライクローズとウェットクローズ
各種契約書を合意しファイナル版を仕上げたら、調印手続きに入る。私のプロジェクトの場合、LAだけを先に締結するドライクローズの形をとった。併せて関係者間契約を締結した
その後、初回ドローダウン対象の発電所の担保関連契約を締結し、その他のCPを充足する見込みが立った後、金利スワップの約定を行い、ドローダウンを実行した。このCP充足は相当数の資料を集める必要があり、かなりの稼働をつぎ込むこととなった。CP充足のプロセスを簡単に済ませられる方法があればぜひ教えてほしい。
ポストクローズ
CP充足にあたり、パネルの保証書に設定した質権の対抗要件を具備するために、パネルメーカーから質権設定の承諾書を取得する必要があったが、国外メーカーで承諾書の取得が実務的に困難で、CP充足には間に合わなかったところ、レンダーと協議して対抗要件具備はポストクロージングにしてもらった。
今後の案件でもあり得る話だから、ウェーブしてほしい、、、
おわりに
相当に端折ったが、プロジェクトファイナンス組成にあたって以上のようなことを経験した。
今回のスキームはCOD後のクロージングであったが、通常の特別高圧の発電所のプロジェクトファイナンスを経験したら、プロジェクトファイナンス組成の経験ちゃんとあります!といえるかな。
レンダーとは各契約書の各条文について相当な議論・交渉をしたが、だいぶ内容を忘れてしまった。思い出したら本稿をリライトしていく。
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